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東京高等裁判所 昭和53年(ラ)1232号 決定 1979年2月09日

抗告人 北信ガス株式会社

相手方 株式会社シンプロ管財人 甲田音十 外一名

主文

原決定を左のとおり変更する。

一  抗告人は原審長野地方裁判所上田支部に昭和四三年から昭和五三年までの間の抗告人の毎決算期ごとの貸借対照表、損益計算書及びその附属明細書各一部(但し、昭和四九年一〇月一日後最初に到来する抗告人の決算期以前の決算期にかかる書類については、以上の書類のほか、抗告人の財産目録各一部を加えて)を提出せよ。

二  その余の本件申立を却下する。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。

本件において、相手方は、原審に対し昭和五三年一〇月一七日付で、商法第三五条に基き「昭和四三年から同五三年までの間の抗告人の決算報告書及び附属明細書」なる文書の提出命令の申立をし、原審はこれを容れて、右申立にかかる表示どおりの文書を抗告人において提出すべき旨決定したが、本件一件記録によると、右申立にいう「決算報告書及び附属明細書」なる文書は、その表示において正確を欠くが、商法第四二七条にいう清算事務終了の場合の決算報告書等を指すものではなく(抗告人が清算手続に入つた形跡はもとよりない)、商法第二八一条第一項(但し、昭和四九年一〇月一日後最初に到来する抗告人の決算期以前の決算期にかかる書類については、昭和四九年法律第二一号による改正前の商法第二八一条、第二九三条ノ五、以下同じ)所定の各書類を総称しているものと解される。

したがつて、本件申立を受けた裁判所は本件申立にかかる右各書類のうち商法第三五条によつて抗告人が提出義務を負う文書を明確に特定してその提出を命ずべきである。

そして、本件申立の期間内における商法第二八一条一項所定の抗告人の計算書類及びその附属明細書のうち同法第三五条によつて抗告人が提出義務を負うものは、右期間の内における抗告人の毎決算期ごとの貸借対照表、損益計算書(但し、昭和四九年一〇月一日後最初に到来する抗告人の決算期以前の決算期にかかる書類については、右両書類のほか抗告人の財産目録を加える)及びその附属明細書であり、右附属明細書とは、同条同項及び株式会社の貸借対照表、損益計算書及び附属明細書に関する規則第四五条(但し、同日後最初に到来する抗告人の決算期以前の決算期にかかる附属明細書については、前記改正前の商法第二九三条ノ五)の規定により毎決算期ごとに抗告人が作成すべき附属明細書のことであつて、この特定に困難はない。

右の次第で、本件申立にかかる文書のうち、主文第一項掲記の文書については商法第三五条により抗告人にこれの提出義務があるから、抗告人に対してこれの提出を命ずべきであり、その余の文書については同条によつて抗告人にこれの提出を命ずべきではないから、この部分の申立は却下すべきである。

以上のとおりであつて、右と異る原決定は右の限度で変更を免れず、本件抗告は結局一部理由があり、その余は理由がない。

よつて、主文のとおり決定する。

(裁判官 外山四郎 海老塚和衛 鬼頭季郎)

(別紙)

抗告の趣旨

原決定を取消す。

原告の申立を却下する。

抗告の理由

一、本決定は、原告の提出命令の申立を理由ありと認めたものであるところ、原告の文書提出命令の申立によれば、被告会社の資産含みの営業権価格を立証する目的で、商法第三五条により被告に提出義務ありとするものである。

しかしながら、商法第三五条に所定する商業帳簿とは、会社の財産状態を説明する特定の帳簿類をいうものであり、会社の営業状況を説明する帳簿をいうものでない。

ところで決算報告書は財産状態の説明をするものでなく、営業状況を説明するものであるから、被告は同法に所定する提出義務を負担するものでない。

二、決算報告書及び付属明細書を提出すべきことを命じているが、付属明細書とあるのみではその特定が困難である。

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